ヘレヴェッヘの日本公演でモーツアルト「レクイエム」を聴く

 このブログは一旦店仕舞にしていたのですが、ヘレヴェッヘの本年6月の日本公演で、私にとって無二の曲とも言えるモーツアルトの「レクイエム」が演奏されたので、備忘的に書き記すため、半分店を開けることをお許しいただきたいと思います。公演会場は、所沢ミューズ アークホールです。



 6月9日、フィリップ・ヘレヴェッヘの指揮で、モーツアルトの「レクイエム」を聴きました。手兵の”コレギウム・ヴォカーレ・ゲント”(合唱団)とシャンゼリゼ管弦楽団を引き連れての公演です。シートはかぶりつきの1階3列14番で、ヘレヴェッヘの背中をまともに見上げる位置でした。


 思い返せば、東日本大震災の年、2011年6月4日に所沢ミューズにおいてヘレヴェッヘは来日公演する予定でした。しかし、この地震の影響で、来日は取りやめとなったのです。やはり同年3月31日に予定されていたイアン・ボストリッジの来日公演も中止されました。私はその両方のチケットを買い求めていたのですが、残念ながら諦めるしかなかったのです。当時は音楽どころか、関東地方に人がもう住めなくなるのではないかという危機に陥った時期でした。


 管弦楽団と合唱団のメンバーは比較的ベテランが多く、演奏はまさに熟成した葡萄酒のような滑らかで味わいの深いものでした。独唱者ではソプラノのスンハエ・イムがまるで天使の囀りを思わせる素晴らしい歌唱を披露し、他の3人のソリストも充実していて、それぞれ感銘深い独唱を聴かせてくれました。
 ソリストはイムの他、クリスティナ・ハマルストレム(アルト)、ベンジャミン・ヒューレット(テノール)、ヨハネス・ヴァイザー(バリトン)です。



 ボストリッジは2012年1月10日に来日公演し、私は東京オペラシティホールで、シューベルトの「白鳥の歌」を中心としたプログラムを聴きました。イギリスの貴公子が、シューベルト晩年の諦観に満ちた暗い情念の世界を見事に描出した感性あふれる精妙な歌唱には思い切り酔いしれました。
 左の写真は、公演後サイン会でのボストリッジです。


 ヘレヴェッヘは2011年の公演ではバッハの「ロ短調ミサ曲」を演奏する予定でしたが、今回なぜか「レクイエム」に変更になりました。そう言えば、ヘレヴェッヘの「マタイ受難曲」のCDでは、ボストリッジエヴァンゲリスト役なのです。奇妙な因縁と言わざるを得ません。


 「レクイエム」をライブ演奏で聴くのはは、2008年11月5日に、ホセ・カレーラスソリストに加えた演奏に次いで二度目です。これは、オーチャードホールでデイヴィッド・ヒメネス指揮、東京フィルハーモニーの演奏でした。ソリストは、バーバラ・ボニー(ソプラノ)、フィオーナ・キャンベル(アルト)、久保田真澄(バス)、それにカレーラスで、この公演はCD化もされています。
 カレーラスは、1994年、ズビン・メータなどとともに、内戦の傷跡の残るボスニア・ヘルツェゴビナサラエボに降り立ち、瓦礫の散乱する国立図書館跡で戦火に倒れた多くの犠牲者たちの鎮魂のために「レクイエム」を演奏しています。(合掌)


 余談ですが、当日会場でこの演奏を聴くために新潟から上京していた大学時代の畏友のMさんと遭遇し、帰りに久しぶりに一献傾けたことを懐かしく思い出します。


(「レクイエム」については次回にもう少し)