イアン・ランキンのミステリー『黒と青』は<ローリング・ストーンズ>のアルバム・タイトルで、本文はロックなどの名曲案内だ(その2)


ミック・ジャガーの真実』(福武書店、1993年10月)という本があります。まあ、屁のツッパリにもならない他愛のない本ですが、この度の市川海老蔵の喧嘩騒ぎなどは、この本に書かれているミック・ジャガーを初め、ブライアン・ジョーンズキース・リチャーズたちローリング・ストーンズのグループのご乱行に比べれば、児戯のたぐいにほかならないということが分かります。ただの酒の上の喧嘩にすぎないものを天下の大マスコミが大騒ぎをしているのも笑えます。
 昔から「喧嘩両成敗」ということになっていますが、成田屋が日本のエスタブリッシュの一翼を担っている家系だけに、当然日本の当局筋は成田屋の肩をもつと思いますが、もし限度を超えて片手落ちの処分を行うならば、忠臣蔵の二の舞になりかねないでしょう。日本のエスタブリッシュとアンチ・ソーシャルな勢力と両成敗という訳にもいかないでしょうが、まあほどほどが肝心です。何しろ、今日は義士討ち入りの日なのですから。


 では前回に引き続き『黒と青』によるロックの名曲案内の後半部分に行きます。
P176 ロバート・ワイアット(英:プログレ) <ロック・ボトム> これはアルバム名。 
P176 ディープ・パープル(英:ハードロック) <イントゥ・ザ・ファイア> アルバム名は”ディープ・パープル・イン・ロック”
P200 リチャード・トンプソン(英:UKロック) <ダウン・ホエア・ザ・ドランカーズ・ロール> アルバム名は”スモール・タウン・ロマンス”
P218 ビーチ・ボーイズ(米:ロック) <神のみぞ知る> アルバム名は”ペット・サウンズ”
P218 フランク・ザッパマザーズ・オブ・インヴェンション(米:プログレ、R&B) <トラブル・エヴリディ> アルバム名は”フリークアウト”
P239 ジェフ・ベック(英:UKロック) <アップ・アゲインスト・ザ・ウォール・ナウ> アルバム名等は不詳。
P239 モントローズ(米:ハード・ロック) <コネクション(ローリング・ストーンズのカバー曲)> アルバム名は”ペーパー・マネー”
P240 ビートルズ(英:UKロック) <アズ・フリー・アズ・ア・バード>
P245 パイソン・リー・ジャクソン(=ロッド・スチュワート)(英:UKロック) <イン・ア・ブロークン・ドリーム>
P245 デヴィッド・ボウイ(英:UKロック) <ジョン、アイム・オンリー・ダンシング> アルバム名は”アラジン・セイン”など。
P245 ルーテナント・ピジョン(英:POP) <モウルディ・オールド・ドゥ>
P275 ジェリー・ガルシア(ふうの男) グレイトフル・デッド(米:サイケデリック・ロック)結成の中心人物
P286 アル・ジョンソン(の物まね・・・)(米:ソウル、R&B)
P286 キンクス(英:UKロック) <デッド・エンド・ストリート> 
P297 ジョン・マーティン(英:フォーク) <アイド・ラザー・ビー・ザ・デヴィル> アルバム名は”ソリッド・エアー”
P334 ローリング・ストーンズ(英*UKロック) <メイン・ストリートのならず者> これはアルバム名。
P464 ロッド・スチュワート(英:UKロック) <ホワッツ・メイド・ミルウォーキー・フェイマス> アルバム名は”ネヴァー・ダル・モーメント”
P509 フリー(英:UKロック) <オール・ライト・ナウ> アルバム名は”ファイアー・アンド・ウォーター”
P509 ドアーズ(米:ロック) <ビーン・ダウン・ソー・ロング> アルバム名は”L.A.ウーマン”
 イアン・ランキンほどのロック好きは、少なくとも小説作品の上では見たこともありません。クラシックならば、例えばトーマス・マンがその作品に、マーラーその人(『ヴェニスに死す』)やシェーンベルク音楽理論(『ファウスト博士』)を取り入れていますが、流行りすたりの早いロックをこれだけ小説に取り上げるのは、イアン・ランキンは心底ロック好きだからなのでしょう。またそれぞれの曲の取り上げ方が自然で、洒落ていて少しも抵抗を感じません。風景描写と同じように物語に溶け込み、また主人公のリーバス警部の心情の表現に役だっています。
 ここでは上のリストの中から、レッド・ツェッペリンに次ぐ70年代のイギリスのハードロックの雄である「ディープ・パープル」の<イントゥ・ザ・ファイア>と、60年代のブリティッシュ・インヴェイジョンを代表する「キンクス」の<デッド・エンド・ストリート>を聴いてみます。

 私は実際、ロックについては十分な知識は持ち合わせず」、何か論評めいたことを言う資格はありませんが、ただ自分の好みは言えます。乏しい体験の中からですが、「キング・クリムゾン」と「レッド・ツェッペリン」は大好きです。この二つのバンドは、なぜか『黒と青』には登場しませんでした。
 では締めくくりに、キング・クリムゾンの7枚目のアルバム”レッド”から名作<Starless>を、レッド・ツェッペリンからはロック史上に隠れなき名盤”レッド・ツェッペリン4”のスーパー・ヒット曲<ロックン・ロール>を、それぞれライヴで観てみたいと思います。(前者は”クリムゾン・キングの宮殿”の<Epitaph>とやや同工異曲の趣がありますが・・・)
 
 キング・クリムゾンは数あるロック・バンドの中でも、異次元の音響空間を作り出している恐るべきグループだと思います。このライヴ映像は少し鮮明さを欠いており、音声もよくありませんが、ヴォーカルのジョン・ウエットンの、少し年輪を経たためか陰影に富んだ歌唱が素晴らしく、また一段と味わいも深く、聴いていて涙が出そうになります。またロバート・フリップ(g)の気合の入り方も尋常ではありません。
 レッド・ツェッペリンでは何と言っても、この映像で見る若き頃のロバート・プラントのパワー全開のヴォーカルが素晴らしい。これは最初のアルバム”レッド・ツェッペリン”から全く変わりません。ジミー・ペイジも「ヤードバーズ」時代のギタリストとしては、エリック・クラプトンンやジェフ・ベックのやや後塵を拝していた感じでしたが、ヤードバーズ解散後これだけのバンドを築き上げたマネージメント力の凄さはピカ一だと思います。この映像を観れば、往時のレッド・ツェッペリンとロックそのものの人気のほどが分かります。
 クラシックと異なり、脳内の知的操作を介さずに直接人の脳髄や神経中枢にインパクトを与え、セクシャル・エキサイトメントを喚起するロックという音楽ジャンルは、ドラッグや酒と同じ効果を人に与えてきたのではないでしょうか。ところで、何万、何十万という聴衆を狂喜乱舞させてきたロックは二十世紀を代表する文化現象として、もしかして、早々と墓銘碑が建てられつつあるような気がしないでもありません。
 キング・クリムゾンやイエスピンク・フロイドが、ジャズや現代音楽まで取り入れつつも戦線が伸び切ってしまい兵站もままならず、これ以上先は視界不良というぎりぎりのところまで突き進んでしまいました。果たしてその先は切り立つ崖っぷちか底なしの晦冥か、はたまた四次元の暗黒宇宙か、いや花咲き乱れる極楽か、ロックという音楽の行く手は未だ五里霧中といえます。