2010-01-01から1年間の記事一覧

エスピオナージュの系譜と、その舞台となった冷戦時代に翻弄され続けた作曲家ショスタコーヴィチの「森の歌」

しばらくぶりに日本のエスピオナージュを読みました。第53回江戸川乱歩賞を受賞した曽根圭介の「沈底魚」(講談社文庫)です。文章がやや類型的なのと会話があまり上手いとは言えないので、始めのうちは読み続けられるか心配していましたが、やがて物語も快…

聖夜のバッハ、コンスタンチン・リフシッツの<ゴルトベルク変奏曲> 所沢ミューズの豊饒と神聖

実際は聖夜でもなく、夜でもなく、12月25日の午後3時の開演でした。でも、コンサートが終わった午後5時頃は、会場を出ると冬の短い一日も既に暮れ方を迎え、会場の所沢ミューズ前の広場に立つ木々に施されたクリスマスのLEDの電飾が鮮やかに目を引きました。…

イアン・ランキンのミステリー『黒と青』は<ローリング・ストーンズ>のアルバム・タイトルで、本文はロックなどの名曲案内だ(その2)

『ミック・ジャガーの真実』(福武書店、1993年10月)という本があります。まあ、屁のツッパリにもならない他愛のない本ですが、この度の市川海老蔵の喧嘩騒ぎなどは、この本に書かれているミック・ジャガーを初め、ブライアン・ジョーンズやキース・リチャ…

イアン・ランキンのミステリー『黒と青』は<ローリング・ストーンズ>のアルバム・タイトルで、本文はロックなどの名曲案内だ(その1)

枕元に積んである本の山の中から、ふと笠井潔の『哲学者の密室』上(カッパ・ノベルズ)を引っ張り出し、再読し始めましたが、小説としての文章と人物造形の意外な下手くそぶりにがっかりし、読み続ける気力を失いました。カッパ・ノベルズで上梓されてすぐ…

<トリックスター>あれかこれか― ”ねずみ男”と”ルパン三世”

<音楽日記>と銘打ったブログの範疇を逸脱しますが、海保ビデオ映像流出事件記事からの行き掛かり上、<トリックスター>に関して少し考えを整理しておかないとこの件にけりがつかないので、以下ややくだくだしい駄文が続きますが、どうか目をつぶってお付…

インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)(4)海保ビデオ流出事件論議を打切るの記ーあとは<トリックスター>について考える

時事的な話題を取り上げるのは、やはり怖さがつきまといます。事件が進行している最中に、まだその全貌が明らかになっていないにも関わらず、したり顔でなんやかんやと占えば、さて当たるも八卦、飛びきりのリスクを背負うことになります。勢い込んで筆誅を…

続続々・海上保安庁ビデオ映像流出事件。トリックスターを演じる男と、ワグナーの楽劇「神々の黄昏」

11月15日発売の「週刊現代」が、映像を流出させた人物は、神戸海上保安部の主任航海士の一色正春氏であることを始めて実名で記事にしました。それまでは日本テレビ系の読売テレビ(大阪)の記者が事情聴取前にインタビューをしており、テレビでもNNNの独壇場…

続・海上保安庁ビデオ映像流出事件と、ベルリオーズの「幻想交響曲」より<断頭台への行進>

デマゴーグが喜びそうな図式が見えてきました。犯罪を犯した中国人船長が罪を問われることなく超法規的に釈放され、一方この事件の映像ビデオを国民に公開しようとしないお上に義憤を覚え、不甲斐ないこのお上に代わって国民の知る権利を守った(?)海保士…

続々・海上保安庁ビデオ映像流出事件。海保士官はトリックスターで、トリックスターの音楽はブルックナーの<交響曲第9番第2楽章>

この事件の報道を毎日興味深々で追っていますが、今日(12日)にGoogleのニュースで、”この士官が弁護士はいらないとして断った”と士官の家族に依頼された当の弁護士が語った映像を見て(しかし何故かその報道はすぐに消えましたが)、その時はっとひらめきま…

海上保安庁のビデオ映像流出事件と、マーラー「交響曲第6番」<悲劇的>第4楽章で打ち下ろされるハンマーの一撃

世の中で起こる様々な事象はすべて今まで世に現れた音楽のどこかで表現されていると、私は信じています。 今日、海上保安庁のビデオ映像流出の犯人(と名乗り出た人物)が現れました。これまでの情報では、彼が本当の犯人なのか、犯人ならば動機は何か。義憤…

インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)(3) 2011年の手帳は、高橋書店<ニューダイアリー アルファ11>に決定

今回は、音楽から少し離れて、2011年の手帳選びについて述べてみたいと思います。 まず、私が最近10年間に使用した手帳を振り返ってみます。 1、2001年:生産性出版<エグゼクティブ・M&W 黒(83)> これまで長期にわたって能率手帳(革装版、あるいは普及…

グスタフ・マーラー、その不穏な精神の荒野

何年ぶりかで「レコード芸術」(’10年11月号)を買ったのは、<マーラー生誕150年記念 レコードでたどるマーラー演奏の100年>という特集をたまたま見かけたからでしたが、その時は、これも偶然ですが柴田南雄の「グスタフ・マーラー」を書棚から引っ張り出…

独逸旅行日記(付録) <ヘルベルト・ブロムシュテットのコンサート(つづき)>

ドイツから帰国した後、娘から再びブロムシュテットを聴きに行ったとの報告がありました。連続演奏会の最後らしいと思われます。曲目はヒンデミットの交響曲「画家マチス」と、ブルックナーの「交響曲第4番」ということでした。 演奏終了後サイン会があって…

独逸旅行日記(5) ベルリン篇 その2<フィルハーモニーで、アンドラーシュ・シフを聴く> そして帰国

10月5日、寿司店「一心」から歩き、コーミッシェ・オパー前を通って、ユダヤ人犠牲記念館に行きました。もう午後4時近くです。先ず眼についたのは道路に面して並んでいる無数の灰色のコンクリートブロックの群れです。(左下写真)この記念館はナチスによっ…

独逸旅行日記(4) ベルリン篇 その1<ウンター・デン・リンデンを歩く>

10月4日、プラハ駅発午前10時31分発のベルリン行き直行列車に乗りました。6人乗りコンパートメントで、若い日本人のバック・パッカーがドレスデンまで一緒でした。北欧からずっと下って来たとのことです。天気は今までずっと晴れでしたが、この日は曇りで、…

独逸旅行日記(3) チェコ番外編 その2<迷宮都市プラハ>

プラハは過去現在の時空が複雑に交錯している、まさしく迷宮の都市です。 前回は、夕食の報告したところで終えましたが、その後ホテルへ帰ろうとして私たちは、なぜか道に迷ってしましました。あせって訳も分からず石畳の道を歩いているうちに、こんな建築物…

独逸旅行日記(2) チェコ番外編 その1<カフカのプラハ>

プラハは長い間ハプスブルグ家の支配下にあり、その後オーストリア=ハンガリー帝国の一部でした。ややこじつけ的ですが、プラハを独逸旅行日記の番外編として位置付けることにしました。 10月2日朝ライプツィヒ中央駅で娘と落ち合い、午前8時54分発の列車で…

独逸旅行日記(1) ライプツィヒ<ゲヴァントハウス>でヘルベルト・ブロムシュテットを聴く

9月29日12時31分成田からルフトハンザ機でミュンヘン経由ライプツィヒに向け出発、ヨーロッパへは初めての旅行です。在ライプツィヒの娘が10月から大学に進む予定なので、それに合わせて思い切って出かけることにしました。 ライプツィヒ空港着は現地時間20…

ベルリンから

現在、ベルリンのラディソン・ホテルにいます。ベルリン大聖堂の川を挟んだ真正面で、大聖堂の威容が目の前です。今はドイツの時間で10月4日午後10時です。(以下はすべてドイツ現地時間です。ヨーロッパは1時間のサマータイムのため、時差は7時間です。) 9…

エフゲニー・コロリオフのバッハ<フーガの技法>

「バッハをCDで究める」(福島章恭著、毎日新聞社2010年3月15日)はまことに奇妙な本です。 名演として紹介されている演奏が、とても手に入らないような希少なアナログLPが主で、CDは従といった感じです。本のタイトルと中身のコンセプトがややすれ違…

この歌手、この一曲<山下久美子"FOUR SEASONS">

テレビ朝日の「新・御宿かわせみ」(平岩弓枝原作)の主題歌です。この作品はNHkでも民放でも何度もドラマ化されていますが、沢口靖子と村上弘明の主演したこのシリーズが一番好きでした。脇役陣を平田満や笹野高史、津川雅彦など芸達者が固め、テレビドラマ…

近況<所沢ミューズ、コンサート情報><ドイツ旅行日程と”コル・ニドライ”>

所沢ミューズのコンサート・チケットを二つ購入しました。一つは12月25日に行われるコンスタンチン・リフシッツの「ゴルトベルク変奏曲」で、もう一つは来年(2011年)の2月13日の、クリストフ・プレガルディエン(T)とアンドレアス・シュタイアー(FP)…

第65回終戦記念日に<海ゆかば>

昨年の今日(8月15日)は靖国神社前の「K病院」で手術後の身で、うんうんうなっていたのを思い出します。8月14日にここの病院の練達の整形外科の先生の執刀で脊柱管狭窄症の手術を受け、おかげで今は完全に近く治癒しています。本当に、先生に感謝です。昨年…

ライプツィヒだより、その2(遊学中の娘より)、そして<聖トーマス教会>写真集

以前から娘に頼んでおいた聖トーマス教会の内外の写真が、8月7日に大量にメールで送信され、翌日8日には、同教会で行われた鈴木雅明氏のオルガン・コンサートを聴きに行った時に撮った写真も送られてきました。演奏に使用したのは、ザウアー・オルガンではな…

初めての能・狂言<能『鵜飼』を観る>

7月18日に何の気なしにNHK教育テレビの「日本の伝統芸能」にチャンネルを合わせて、そのまま眼が釘付けになりました。観世流の能『三輪』の舞台です。シテは梅若玄祥、ワキは宝生閑という現代のシテ、ワキを代表する名人が出演していました。面の深い表現性…

ライプツィヒだより、その1(遊学中の娘より)、そして<バッハにおける反ユダヤ主義とは>

ライプツィヒにいる娘から、メールに添付して左記の写真が送られてきました。バッハがトーマス・カントルとして礼拝音楽を担当していた<ニコライ教会>のパイプオルガンの写真で、娘がそこで行われたオルガン・コンサート(チケット代は、2ユーロだったとの…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その10)<妙なる静謐:バッハの「音楽の捧げもの」より”6声のリチェルカーレ”>

今月(7月)ライプツィヒへ語学留学に行った娘より、メールで左の写真が送られてきました。ご存知のとおり、ライプツィヒはバッハゆかりの地で、彼は1723年から1750年の逝去までライプツィヒに在住し、トーマス・カントルの地位にありました。その職務として…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その9)<山崎ハコの「白い花」と、中島みゆきの「エレーン」>(続)

(承前) 中島みゆきでは、アルバム「寒水魚」が出た頃、行きつけのレコード店で、顔なじみの店主のお嬢さんに、”中島みゆきのLPを全部下さい。”と言って目を丸くされたことを覚えています。それはそうでしょう、普通は40過ぎの親父が買い求めるようなもので…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その9)<山崎ハコの「白い花」と、中島みゆきの「エレーン」>

何と軟弱な少女趣味か、と嗤われそうですが、この二人の歌手こそ過ぎ去った20世紀の日本において、私の魂の最深部を撃った忘れることのできない歌手なのです。もちろん何十年、いや実感的には何百年も前のことのように思われます。それは日本がバブルを迎え…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その8)<大いなる眠りを誘う、シューベルトのピアノ・ソナタ第21番D.960「遺作」>

いつの頃かもう忘れましたが(10年以上は経っているでしょう)、毎夜床に就くときに、スヴャトスラフ・リヒテルの弾くシューベルトのピアノ・ソナタの第21番「遺作」(FM放送からエアチエックしたもの)を、枕元のラジカセで聴きながら眠るという一時期が…