独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その9)<山崎ハコの「白い花」と、中島みゆきの「エレーン」>

 何と軟弱な少女趣味か、と嗤われそうですが、この二人の歌手こそ過ぎ去った20世紀の日本において、私の魂の最深部を撃った忘れることのできない歌手なのです。もちろん何十年、いや実感的には何百年も前のことのように思われます。それは日本がバブルを迎えようとしていたあの時代、蜃気楼の中で揺れやまぬ遥かな幻の時代の表象にほかなりません。
 時系列的には、山崎ハコ中島みゆき、の順番に私を訪れてきました、まるで冥府の使者のように。ともに似たような感性を持つ二人の歌手ですが、彼女らの感性は私の感性の生理の最も本質的な部位にぴったり重なるものでした。あるいはまた、魅入られたように果てしなく滑り墜ちてゆく眩暈にも似た崩落感覚そのものと言っていいかもしれません。黄泉へと向か薄明の道をよろめき辿る感覚とでも言えるでしょうか。
 標記の2曲は、今では、大部分を20世紀に生きた私にとって、去り行く時代に自分が置き去りにした何ものかへの鎮魂歌であり挽歌なのです。しかし、この曲に心を奪われていた頃の感情の激しいうごめきと振幅は、思い出すにはもはや遥か遠くに去りつつあります。感情は移ろいやすく、陽炎は次第に黄昏に吸い込まれていきます。年を重ねることは避けようもなく、身体は衰えていくばかりです。
 そして、これらの曲に魅入られていた私の心的風景には、よく見ると己れ自身の姿の透かし絵の背景に、まぎれもない狂気が潜んでいたと、今更ながら感じてぞっとします。この二人が放つ狂気の呪縛をここで解いておくことで、自分が未だに捉えられている狂気から逃れることができるかも知れません。
 
これは、私がかつて愛聴していた山崎ハコのLPレコードのジャケットです。昭和54年9月の博品館劇場におけるライブ録音です。
 なお、この記事に引用する素晴らしい動画の数々の利用させていただいたことについて、何とぞ投稿者の方々のお許しを頂きたいと存じます。

「白い花」!この曲だけはなぜか聴くと胸が苦しくなります。それは、単に悔恨からだけでしょうか・・・?それでも聴きたいというアンビヴァレンツに心が裂かれそうになります。そう、山崎ハコの歌の世界はアンビヴァレンツの美学そのものなのです。

 ああ、白い花も今は幻で、時はすべてを消し去ろうとしますが、この歌だけは数十年前も今も、少しも変わることなく心に強く響き、聴くほどに物狂おしくなるばかりです。
 山崎ハコの歌で、特に好きなものをいくつか取り上げてみます。左が「心だけ愛して」、右が「望郷」です。(「望郷」は音は良くないのですが、何といっても貴重なライブ映像です。ただし、いつまでもつか・・・?)

「心だけ愛して」では<堕ちてゆくどこまで>と歌い、「望郷」では<あの家(うち)へ帰ろうか、あの家(うち)はもうないのに>と歌うその救いのなさは、聴く者を否応なしにそれぞれが抱く煉獄の世界へと導いて行きます。
 では、もう1曲「織江の歌」。4年ほど前、福岡県田川市伊田のある学校へ看護師の募集に行く機会がありましたが、そのときに香春岳を見て、真っ先に心に浮かんだのは「青春の門」と「織江の歌」でした。かつて福岡に住んだことのある私にとっては、特別に懐かしい曲です。そしてこのライブ映像、どうしようもなく泣けてきます。

中島みゆきの項へ続く)