インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)(5) ジャズとイージーリスニングで聴く<ダニー・ボーイ>

 徳川から明治へと時代が移り、西洋音楽を音楽教育に取り入れ始めた日本は、当初全く伝統のないこの分野、主に唱歌などに外国の歌のメロディに日本語の歌詞を無理やり付けて歌うことから始めました。いわゆる翻訳唱歌です。その中でも、最も日本人の心情に合ったのは、民謡を中心としたアイルランドスコットランドイングランドの歌、あるいはドイツなどの歌でした。明治も後半になって、ようやく瀧廉太郎や山田耕作中山晋平本居長世などの日本人の作曲家を輩出することになるのです。
 アイルランドの歌では、<ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)>や<夏の名残りのバラ(庭の千草)>や<アイルランドの子守唄>など、スコットランドの歌では、<アニー・ローリー>や<ロッホローモンド>、あるいは<蛍の光>や<故郷の空>、イングランドの歌では、<グリーンスリーブス>や<埴生の宿>、<メリーさんの羊>や<ロンドン橋>など。
 これらのいくつかは、小學唱歌全3編などに入っています。ただ明治期の唱歌集での外国曲の全貌については、まだよく分かっていない部分も多いのです。
 さて<ロンドンデリーの歌>すなわち<ダニー・ボーイ>は古くから愛唱されている名曲で、かつては、”ハリー・ベラフォンテ”や”アンディ・ウイリアムズ”、そして”エルヴィス・プレスリー”や”トム・ジョーンズ”、新しいところでは”ケルティック・ウーマン”や”ジェイド・イン”が美しい歌声を聴かせています。これらをアップロードしたブログも沢山あるようます。
 東日本大震災を経験した後、日本の中枢を担う政界や官界や財界の大立者たちの猿芝居、あるいは大メディアやそこに寄生する学界や言論界のオピニオン・リーダーたちの愚劣な言動を延々と見続けさせられて、いい加減心がささくれ立ってしまっているこの頃、なぜかこの懐かしい曲を、干天に慈雨を求める弥生人の如くふっと耳にしたくなりました。ここでは、ジャズとイージーリスニングから選んで心の慰めとしたいと思います。(これらの素晴らしい演奏をアップロードして下さった方々に、心から感謝いたします。)
 まずは、ビル・エヴァンス(左下)、キース・ジャレット(右下)です。ジャズが芸術を意識するとこうなるという見本のような演奏ですが、あるいは面白くないと感じる向きもあるかも知れません。

 次は、ベン・ウェブスター(左下)と、アート・テイタム(右下)の演奏に耳を傾けてみます。ウェブスターはイージーリスニングの一歩手前で、面白おかしく演奏しています。(3曲演奏される2曲目)
 また、テイタムのピアノ演奏の手練(てだれ)ぶりと即興の素晴らしさは驚くべきものがあります。

最後に、イージーリスニングの王者、サム・テイラー(左下)と、シル・オースティン(右下)のむせび泣くような(何と通俗的な!)テナー・サックスの調べを聴きながらとことんくつろぎましょう。オースティンのサービス精神の横溢した、いかにも大向こう受けしそうな演奏はお見事の一言です。