インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)(4)海保ビデオ流出事件論議を打切るの記ーあとは<トリックスター>について考える

 時事的な話題を取り上げるのは、やはり怖さがつきまといます。事件が進行している最中に、まだその全貌が明らかになっていないにも関わらず、したり顔でなんやかんやと占えば、さて当たるも八卦、飛びきりのリスクを背負うことになります。勢い込んで筆誅を加えたと思ったら、後で見当外れということになって赤恥をかく恐れは十分あります。
 それに、現代社会におけるニュースの陳腐化のスピードは驚くべきものがあり、拳を挙げたと思う間もなく、その下にはもう別の問題が来ていて、拳の落とし所がなくなってしまうことさえあります。世界では、よくも次々と事件や問題が発生するものだと感心してしまいます。
 というわけで、海上保安庁のビデオ映像流出事件に、無理算段して音楽と関連付けて語るのは、そろそろ打ち止めにする時期にきました。
 ただ、たとえ国家といえども、現代において情報を秘匿するということがいかに困難かという事実ははっきりしたようです。大前研一氏はIT革命後の情報のボーダレスな移動の可能性について以下のように述べています。
「新大陸はIT革命により、国家間、企業間を問わず、あらゆる境界を越えて、簡単に情報が移動することが可能である。したがって、報道を独占でもしない限り、各国政府がその国民を欺(あざむ)くことは簡単でなくなってしまった。」(『新・資本論東洋経済新報社、2001年11月)
 新大陸とは、前述の本で大前氏が主張している「すでに世界を支配している新しい経済原則」のことを言い、「こうしたことを理解しない日本の指導者たちは100年前のケインズの『一般理論』をもとに、この10年間(この本を書き上げたのは2001年9月)、国債を乱発したり、金利を下げたりして、国民の財産を無駄に使ってきた。」と断じています。要するに日本の政治家やエリート官僚や日銀を始めとする金融・経済界の指導者たちは、みな"stupid"であると嘆いているのです。(ぱちぱち!拍手)
 大前氏によれば、この新大陸は目には見えないもので、次の4つの、(経済体制として)独立した空間(構成要素)の相互関連性を認識することで理解が可能としています。
1 実体経済の空間  2 ボーダレス経済の空間  3 サイバー経済の空間  4 マルチプル経済の空間
そして、第1の空間以外の経済空間は、数学によるモデル化は不可能としています。
 私たちは、現実にはニュートン力学ユークリッド幾何学、それに地政学の支配する(大前氏の言う)旧大陸で生きています。こうしたヴィジュアルな世界に安住する人間にとって、新大陸を認識するのにはよほど強い自己啓発と意識改革の努力が必要とされます。それが出来た人間が次の時代の勝者になるのでしょう。


 ところで、今回の事件で課題としてきた<トリックスター>とは何か、について、簡単におさらいをしておかなければなりません。
このブログは、一応音楽についてのものなので、また頑張って音楽と結びつけようと思いますが、さて、クラシック史上もっとも<トリックスター>らしい人物が登場する楽曲は、「ペール・ギュント」に真っ先に指を屈します。原作者のヘンリック・イプセンの戯曲のための劇付随音楽と、それを基にした管弦楽のための2つの組曲を作曲したのはエドヴァルト・グリーグです。
 あらすじを読むと、ペール・ギュントとは、さてはノルウェーねずみ男か、と思ってしまいます。
 ではちょっとひとやすみして、ペールギュント第2組曲の最後の甘いメロドラマティックな<ソルヴェイグの歌>を、ロシアの妖精アンナ・ネトレプコの歌唱で聞いてみます。<トリックスター>についての更なる探究は引き続き次回で。