2010-01-01から1年間の記事一覧

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その7)<沈守峰の「その時、その人(クッテ ク サラン)」 と、趙容弼の歌う「鳳仙花(ポンソンファ)」> (続)

承前 2、趙容弼(チョー・ヨンピル)の歌う「鳳仙花(ポンソンファ)」 「鳳仙花(ポンソンファ)」は韓国のヴァイオリニストであった洪蘭坡(ホン・ナンパ)が1920年に作曲した美しくも悲しい歌です。この曲が作曲された当時は、日韓併合の時代(1910年8月…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その7)<沈守峰の「その時、その人(クッテ ク サラン)」 と、趙容弼が歌う「鳳仙花(ポンソンファ)」>

1、沈守峰(シム・スポン)の<その時、その人(クッテ ク サラン)> 1979年10月26日、韓国大統領の朴正煕が、ソウル市宮井洞にある韓国中央情報部(KCIA)管轄下の宴会部屋(ナ棟)で晩餐会の最中、大統領の腹心の一人であった中央情報部長金載圭により、…

<所沢ミューズ>でツィメルマンの、オール・ショパン・プログラムを聴きました

昨年に続いて、クリスチャン・ツィメルマンが「所沢ミューズ」でピアノ・リサイタルを行いました。’06年、’07年、昨年に引き続き4回目の公演となります。今年のプログラムは、昨年のベートーヴェン、シマノフスキーなどと異なり、ショパン生誕200年という年…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その6)<casta diva は、マリア・カラスだけではありません>

ベルカント・オペラの最高傑作、ベッリーニの「ノルマ」には、マリア・カラスによる絶対的名演のCDが残されているのはご存知のとおりです。 すなわち、トリオ・セラフィンの指揮による1960年9月の二度目のスタジオ録音のことで、誰しも異論のないところでし…

インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)(2)「ジャズは死んだか」

―「ジャズは死んだか」 ―「クラシック音楽は滅びかかっているか」 このテーマについて、言及しておきたいと思います。前者は、相倉久人氏の、後者は鈴木淳史の表現を借りました。―まず「ジャズは死んだか」について。 すでに、1977年に相倉久人氏は『相倉久…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その5)<サンソン・フランソワの弾くショパン、ピアノ協奏曲第2番第2楽章>

確かに、ショパンは、コルトーが言うように、 「単にピアニストの中で最大の音楽家であったばかりではなく、また同様に―少なくとも私の意見では、また作品がその証拠を示す例だけに限るとしても―彼は音楽家中で最も奇跡的なピアニスト」でした。 しかし実生…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その4)<オーストリア=ハンガリー帝国1905年、メリー・ウィドウよりヴィリヤの歌>

オーストリア=ハンガリー帝国とは、まことに奇妙な帝国国家でした。この当時、帝国と言えば殆どが軍事的覇権国家を意味し、周囲にはプロイセンを盟主とするドイツ帝国、ロシア帝国、オスマン帝国などの軍事的脅威が存在していましたが、少なくとも成立にお…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その3)<カティンの森事件と、ミサソレムニスよりアニュス・デイ>

2010年4月10日、ポーランドのレフ・カチンスキ大統領の乗った政府専用機ツポレフが、スモレンスクの空港付近の森林地帯に墜落し、大統領夫妻と同乗していた多数の政府高官など(陸軍参謀長、外務次官、ポーランド中央銀行総裁、国会議員ら)搭乗者96人全員が…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その2)<ムターのツィゴイネルワイゼン>

この曲は誰でも知っているヴァイオリンの定番曲で、1904年のサラサーテ自身の演奏を筆頭に、大御所から、それこそ有象無象に至るまで数限りない演奏が存在しますが、ヴァイオリンの演奏効果を顕示するために曲の表層をなぞっただけの凡百の演奏を尻目に、ひ…

独断と偏見で選ぶこの世で最も心に響く名曲10選(その1)<ジム・ホールのアランフェス協奏曲>

これは、私の勝手に選ぶ<この世で最も心に響く名曲>を極め付きの名演で紹介しようというシリーズです。(ただし、今までのブログで紹介した曲は除きます。) ただ、選曲は全く私の独断と偏見によるもので、大いに異論はあるでしょうが、一種の遊びと思って…

ウエイン・ショーターは好きですか?

鹿児島市でかつて<パノニカ>というジャズ喫茶にしてジャズ・ライブハウスを経営していた中山信一郎さんは、在野の著名なジャズ評論家で、私の鹿児島市在住時代の尊敬する知人でもあります。私が鹿児島を去ってからもう10年以上、以後一度もお目にかかって…

インテルメッツオ(ちょっとひとやすみ)

ー世捨て人グレン・グールドの眼 グレン・グールドは、<ベートーヴェンの最後の三つのソナタ>という題の文章(ライナー・ノート)の中で、ガブリエル・フォーレの親友で音楽学者のヨーゼフ・ド・マルリアーヴのベートーヴェンの四重奏曲に関する著書の中に…

ベートーヴェン〈弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 作品131〉(その2) ライナー・ノーツ風に

この作品は、1826年6月頃、作品132の後に15番目に完成した作品で、甥のカールの軍隊入隊についてお世話になったシュトゥッターハイム男爵に献呈されています。ベートーヴェンが亡くなったのは1827年3月26日ですから、死の9ケ月ほど前の作品です。 この曲につ…

ベートーヴェンは〈弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 作品131〉で神に近づいた?

五味康祐氏は端倪すべからざるオーディオマニアで、クラシック音楽に極めて造詣の深い作家でした。氏の著書に「天の聲―西方の音」がありますが、これは氏の代表的な音楽論(というか、音楽による自省録みたいなもの)で、以前出版した「天の聲」の続編です。…

「サクリファイス」と「抵抗・死刑囚は逃げた」― 映画とクラシック音楽(その2)

アンドレイ・タルコフスキーの遺作「サクリファイス」のDVDはすでに手に入らなくなり、アマゾンの中古品で、なんと18,000円とか32,000円という目の玉の飛び出るような価格が付いています。 また、ロベール・ブレッソン監督の傑作「抵抗・死刑囚は逃げた」も…

バッハ・コレギウム・ジャパンのマタイ受難曲を聴きました

昨日(4月2日)の午後6時に、マタイを聴くために東京オペラシティで娘と落ち合いました。娘とは、2月11日に所沢ミューズで、樫本大進の「バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」などを聴いて以来の久しぶりの一緒の音楽会となります。 今年は発売…

チェコ・フィルの思い出など

たまたま立ち寄ったレコード・CD店で、ラファエル・クーベリックとチェコフィルハーモニー管弦楽団の演奏による、ドヴォルザークの「交響曲第9番(新世界より)」と、ニキタ・マガロフ(P)のショパン「24の前奏曲」と「ピアノ・ソナタ第3番」の入ったCDを買…

映画とクラシック音楽

以下は、2008年に私の勤務先の機関誌に書いたものですが、配布先が限られていたので、あらためて公開します。なにとぞご寛恕を。 ───────────────────────────────────── 連続幼女誘拐事件の宮崎勤死刑囚に6月17日死刑が執行されたと聞き、すぐに頭に浮かん…

新宿風月堂はブルックナー第9番とグレゴリオ聖歌

大学生の頃、上京する度に立ち寄ったのが新宿風月堂でした。その後就職して東京にいた1964年4月から1967年9月まで、折に触れ足を向けた記憶があります。大学時代、音楽を通じて仲の良かったA.E君とは、共に東京で就職したこともあって、会うときはいつも風月…

コルトレーンが死んだ日

ジャズを聴き始めたのは1961〜2年頃からです。最初に買ったレコードは、CBSの「ベスト・オブ・チャーリー・ミンガス」というアルバムで、どちらも1959年録音の「MINGUS AH UM」と「MINGUS DYNASTY」から選曲したオムニバスでした。それ以来、今に至るまでミ…

今年もマタイ受難曲を聞きに行きます

昨年は、マタイ受難曲の演奏を二度も聞くことができた画期的な年でした。一つは、バッハ・コレギウム・ジャパンの、そしてもう一つはミシェル・コルボの演奏でしたが、前者は私がこの年(?)に至って初めて接した生演奏です。いわゆる、メンデルスゾーン上…

高貴なる魂の声 Kathleen Ferrier

マタイ受難曲は、私のような弱い心を持ったインモラルな人間にとって、最後の心の砦といっていい大切な曲です。神を信じない私ごときが、バッハの中に時として神を見る、など言うのはおこがましい限りですが、ひそかにそう叫びたくなることがあるのです。 つ…

Est-ce ainsi que les homme vivent

「花鳥風月の詩」などのブログを運営している「豊さん」とは、ともに詩を書いてきた古い友人ですが、1998年にその豊さんたちと作った同人詩誌「誰」18号に私の書いたコラムのタイトル「男の生き方」は、フランス屈指のシャンソン歌手Léo Ferré(レオ・フェレ…

シャンソン&カンツォーネ

(シャンソン) カンツォーネ(ナポレターナなど)は、日本ではよくシャンソンと並べて論じられます。同じラテン系というカテゴリーに入るからでしょうか。しかし、かつて私たちを楽しませてくれた多くのシャンソンも、曲想がもはや現代の音楽シーンから遠い…

멍에

思えば、セルジオ・ブルーネから受けたカルチャー・ショックに比べれば、はるか昔ソウルで김수희(キム・スヒ)の멍에(モンエ)を初めて耳にした時のそれはさらに鮮烈なものでした。 モンエを初めて聞いたときのことは今でも忘れません。一瞬全身の血の流れ…

Core'ngrato

標題の曲(日本語では「つれない心」あるいは「カタリ・カタリ」)は代表的なナポレターナです。私がこよなく愛する曲のひとつですが、イタリアの民謡歌手のみならず、著名なオペラ歌手を始めとする多くの歌手たちが、コンサートなどで好んでこの曲を取り上…

Je crois entendre encore(今でもまだ聞こえるような気がする)

Je crois entendre encore(訳すと「今でもまだ聞こえるような気がする」)は、Bizet(ビゼー)のオペラ「Les pêcheurs de perles(真珠採り)」の有名なテノールのアリアのタイトルです。普通は「耳に残るは君の歌声」と訳されることが多いのですが、同名の…

前口上

人の言説にはすべからくバイアスがかかっている、というのが私の持論ですが、最近は、言説のみならず人間の本性、ひいては人間集団社会の特質に修復不能のcrack(ひび割れ)あるいはgap(ずれ)があり、そのcrack(またはgap)を埋めているのが嫉妬(envy)…