Je crois entendre encore(今でもまだ聞こえるような気がする)

 Je crois entendre encore(訳すと「今でもまだ聞こえるような気がする」)は、Bizet(ビゼー)のオペラ「Les pêcheurs de perles(真珠採り)」の有名なテノールのアリアのタイトルです。普通は「耳に残るは君の歌声」と訳されることが多いのですが、同名の映画のイメージが強かったり(映画の原題は「The man who cried」なのですが)、また日本語訳としては必ずしも正確とは言い難く、Pierre Dervaux(ピエール・デルヴォー)が指揮をしたレコード(録音は1960年、1998年にはEMIでCD化されたが現在は廃盤)のタイトルと同じにしました。直訳すればこうなるのでしょう。

 デルヴォー盤にはまだ35歳の頃の若きNicolai Gedda(ニコライ・ゲッダ)が出演し、このナディールのアリアを古今無双の絶唱で聞かせてくれます。彼の嫋嫋(じょうじょう)とまた切々と胸の内を訴える歌唱は他の追随を許しません。しかし、このデルヴォー盤が残念ながら今では生産中止となって手に入りません。このような二つとないような良い演奏のCDがなぜ廃盤になるのでしょうか。

 他の歌い手では、この曲を十八番(おはこ)にしていたAlain Vanzo(アラン・ヴァンゾ、故人)や、ルーマニアの美人ソプラノ歌手のAngela Gheorghiuアンジェラ・ゲオルギュー)の旦那のRobert Alagna(ロベルト・アラーニャ)もなかなか聞かせますし、意外なところでは、ピンク・フロイドの大ギタリストであったDavid Gilmourデヴィッド・ギルモア)がバンドを率いて自ら歌っていて、お世辞にも美声とは言えませんが、独特の風格と味わいがあります。また、古いところではTino Rossi(ティノ・ロッシ)のソフトな歌い回しも負けずに魅了的です。ゲッダと同様、高音部をきちんと裏声で歌っています。前述の映画でこの曲を歌ったSalvatore Lichitra(サルバトーレ・リチートラ)もわずかに若さからくる美声の誇示が感じられるものの、決して悪くはないと思います。
 では、デヴィッド・ギルモア(左)とアラン・ヴァンゾ(右)の歌声も聴いてみましょう。

〇なお、歌手名・曲目をオリジナル表記にしてあるのは(二度目からはカナ表記)、いずれ適切なVideo hosting service(動画共有サービス)で鑑賞するときの検索の便のためです。すべて聞くことができるはずです。