この名曲にこの名演あり(2)ジャン=フランソワ・エッセールの弾く、モンポウの「歌と踊り」第8番の懐かしさが胸迫る旋律 

 今から10年ほど前のこと、事情があって1年足らずの期間、南房総天津小湊町で過ごしたことがあります。2005年に鴨川市に合併されましたが、日蓮の生まれたことで有名で、清澄寺や鯛ノ浦などの名勝がありました。2001年の2月から同年11月までです。
 南房総は冬は暖かく、夏は涼しく、その前に住んでいた気候の激烈な鹿児島に比べればまことに穏やかで過ごしやすい土地柄でした。近くの御宿町には<月の砂漠の像>があり、また鴨川市には<浜千鳥の碑>もありました。私の住んだ家は、海岸を走る国道128号線の10メートルほどの山側で、家を出れば、国道の先の広く平らな岩場の先にはいつも穏やかな海が拡がっています。ただ裏山には猿や鹿がいて、山蛭の巣窟でもあり、家の屋根の上では猿がしょっちゅう騒いでいました。
<浜千鳥>の冒頭の”青い月夜の浜辺には”という詩は、ここへきて初めて理解できました。明るい月夜に家を出て岩場に佇み海を見ていると、言葉通りの青い月夜が実感できます。
 ところで、ここで知り合った小さな土建業のY社長の家へよく遊びに行きましたが、あるときリビングの片隅に沢山の音楽テープがあるのに気付きました。聞くと、主が不在となった家にあったものだそうです。そのうちいくつかを選んで、Y社長から貰ってきました。その中に館野泉さんの演奏するラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」の後に、ジャン=フランソワ・エッセールに弾くフェデリコ・モンポウの「歌と踊り」の第7,8、9番が入っていました。そのうち第8番(歌と踊りの、歌の部分)を聴くと、何故かひどく懐かしい気持ちがするのです。この懐かしさは一体どこから来るのか不思議で、心魅かれるままに繰り返し聴いていました。
 その後私自身転変を重ねて来て、今は東京の片隅に身をひそめていますが、ついこの前、久しぶりにこの曲のテープを聴いていて”はっ”と思い出したのです。これは、大学時代の友人で、ギターの上手いM君が得意にしていた曲と同じだったのです。友人の下宿に学生仲間が集まった時に彼がよく弾いていたことを懐かしく思い出しました。「アメリアの遺言」というタイトルで有名なカタローニャ民謡です。そういえばこの曲は映画「禁じられた遊び」の中でも用いられていたのです。モンポウの曲の旋律はほとんど「アメリアの遺言」と同じと言っていいのです。この曲は、ミゲル・リョベートが独奏用に編曲して一躍有名になりました。
 下は、Daekun Yangというギタリストの演奏で、you tubeの中で一番気に入った演奏です。
 
  モンポウの「歌と踊り」はアリシア・デ・ラローチャのものが知られており、その演奏は確かに堂々としていて立派ですが、やはり思い入れたっぷりの情感が漂うエッセールの演奏がこの曲にはぴったりだと思います。エッセールはモンポウに直接教えを受けたと言われていますが、確かめてはいません。また、今年の<ラ・フォレ・ジュルネ・オ・ジャポン>で5月に来日予定となっていましたが、現在チケットは発売停止になっているようです。
 第8番ではyou tubeではエッセールの演奏はなく、モンポウ本人とアルド・チッコリーニの演奏を聴くことができます。「歌と踊り」では第6番が有名で、これはミケランジェリなど多くのピアニストの演奏がアップロードされています。
 以下は、左がモンポウ本人による第7,8,9番と、チッコリーニの弾く第8番の演奏です。